エピローグ

 6月21日(日)。雨。旅のリーダーの村上さんから電話が入った。「ポーランドからアニタさんの妹が来ています」と。コルチャック先生終焉の地トレブリンカで、こと細かくジジたちに説明してくれた若くて美人の大学生だ。「うちに寄って下さい」。「そんなに時間が取れないのです」と村上さん。それではと落ち合い場所の桂川町「古時計」にババが先行し、ジジは大町さんの所に回っている「東欧の旅」のアルバムを貰いに走る。
 「古時計」には、美人とその友達のこれまた6尺八等身美人がいた。それと村上さんの友達の福沢さん夫妻も。福沢さんは東欧の旅を共にする予定だったが、用件が飛び込んで同行出来なかった方だ。実はジジの教え子の父、母でもある。
 夕食を共にしながら聞いた話によると、単なる観光ではなかった。ジジたちの旅の後、彼女の父親が急死して、大学在籍が経済的に絶望となった。それではと単身、友達の6尺美人を頼っての来日となり、飯塚の地でダンサーとして半年ほど働くのだという。
 トレブリンカでの輝くような瞳は、ジジの目には曇ってみえた。知らぬ土地での不安はともかく、ダンサーだけの収入で学費まで稼げるのか、何も力になってやれないジジは、こんな「旅」は早く切り上げて無事にポーランドに帰って欲しいと願うのみであった。
 9月3日(木)。晴。みやこうせいさんからジジに手紙。しかも廃物利用の封筒入り。『今が青春』を送っていたことへのお礼だ。律儀な方でもう数通届いている。私信だが一部復刻させて頂く。
 「前略、お変わりございませんか。いつも通信をありがとう存じます。東欧日記、興深く拝読して居ります。あんなお粗末な解説だったのに、と大変恥しく思います。雪のカルパチア越え、実に印象的でしたね。トレブリンカは一日近くいたい所でした。人間はいささかも進歩していないのだと改めて感じるこの頃です。ぼくの行った所はほとんど紛争地帯となりました。クロアチア、セルビア、ボスニア、ヘルツェゴビナ…。段々、各地の友人の安否をたずねようかと考えています。(中略)四月にこんな本(明日は貴族だ!)を出しました。30年ぶりの改装再版で、テーマは“笑い”です。折があったらごらん下さいませ。(後略)」
 ジジはさっそく購入して一気読みした。すごい面白さだ。そして筆のタッチ。これこそ「旅」だ「旅日記」だと思った。みやさんのパリでのルーマニア民俗写真展は、2度の延長を含め1年近いロングランとなり、9月15日に閉展のあと、地方都市に移動した。したがってみやさんの「旅」は果てしなく続く。「今が貴族だ!」と思う。ジジもまた本当の「旅」がしたくなったようだ。

芭蕉忌や月日は百代の過客なり

帰路の旅