あとがきに替えて

 もうずいぶん前に南北インドを旅して記し残した駄文だ。サイトを立ち上げたのは、アナログ電話回線を介してのインターネット黎明期で、一枚の画像を開くにも長い時間がかかっていた。
 今はけた違いのブロードバンド化が進み、改めてサイトを構築し直してみた。ネガから写真をスキャンしてみると、なかなかいい写真もあるではないか。

 2000年ころだったか、NHKテレビを見ていると見覚えのある男がインタビューに応えていた。印象深かったので顔と名前も憶えている。私がブッダガヤで、まとまった数のお土産を買ったインド商人だった。
 インドの物売りを相手にするとロクなことはないので、彼らがニヤニヤして接近してくると私の警戒度はマックスに達する。しかし彼は違った。「私は元不可触民の仏教徒です」と言うので感心した。それで例外的に彼から多くの品物を買ったのだった。
 マハ―ボディー寺の仏足石を西洋紙でとった拓本があったが、「和紙のものはないか?」と問うと、後でホテルにまで和紙のものをもって来た。これにはびっくりした。1枚1USD。現在拓本は許可されていないので、いま日本で手に入れようとすると数万円はする。あのとき買わなかったのを後悔しているところである。
 インタビューで彼は「ヒンズー教徒」だと言っていた。すべてを悟ったのはこの時。私がインド仏教徒に興味があることを見抜き、不可触民出身の仏教徒だと詐称し、財布のヒモを緩ませたということだ。インド商人の底なしのしたたかさを思い知り、こればかりは恐れ入ったことである。
 また時間があれば再訪したい。混沌の中に何か確かさがあるインドである。

JISOJI Yutaka


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