クラコウにて

昼食をとってユダヤ人街に向かう。レンガ造りの建物に古めかしい鉄の扉が並んだりしている。廃虚のようでもあり、一部はアパートのように見えた。
 教会前の広場で3人の子どもが、塀に向かってサッカーのシュート遊びをしている。カメラを向けると「ハロー」と答える。連れの二十二(じそじ)さんが遊びの様子をビデオに収めようとすると、「オーケー」と言って、演技力豊かにシュートして見せてくれた。
 ユダヤ教会に入る。賛美歌が流れている。机が20ほど並び、飾りのない窓が並ぶ。人影はない。壁画と音楽が雰囲気を作り出していた。
 続いてもう一つの古めかしい教会に行く。中は豪華な飾りがあり、ミサが行われていた。どうやら子ども達に賛美歌を教えているらしかった。ステンドグラスも鮮やかな教会だった。パメラさんが写真はだめだというので、ジジはビデオだけ写した。みやさんはカメラだけ使っていた。
 クラコウは9世紀につくられた古都で、1320年から1611年までポーランド王国の首都だった。第二次世界大戦の災害を免れた旧市街地区は、1978年ユネスコの「世界遺産」に認定された。京都に良く似ているといわれる。ワルシャワに遷都された後も、戴冠式や王の葬儀が行われ、社会主義の時代になってもカトリックが生き続いている。ヤギエオ大学で学んだ有名人に天文学者のコペルニクス、ポーランド人初のローマ法王となったヨハネ・パウロ2世などがいる。
 15世紀に建設されたという円形をした要塞が見える。バルバカンだ。左に折れると旧市街地への入口となるフロリアンスカ門。1300年頃の街の城門だそうだ。沢山の人出で賑わっている。ここでも絵の露店が並んでいる。
 ポーランド最古の美術館「チャルトリスキ博物館」に行く。ダ・ヴィンチの『白貂を抱く婦人』などがあるのだが、残念ながら休館日だった。
 ヨーロッパで一番古い「カフェ」でひと休みする。暗くて足元もよくわからない中でステンドグラスや壁画が美しい。コーヒーもチョコケーキも雰囲気があった。
 中央市場広場に行く。巨大な広場で、縦横200メートル、4万平方メートルあるという。中央の細長い建物は元織物会館で現在は土産物屋街になっている。
 真向かいにゴシック様式の教会が見える。聖マリア教会だ。14世紀の建物で、2本の塔が高くそびえ、広場を見下ろしている。一時間ごとにラッパの時報が流れるそうだ。この塔はかって物見櫓の役割をしていた。外敵が侵攻してきたのを知らせようとした見張り番が、この塔からラッパを吹く途中で咽喉を射られて死んでしまった。これを悼んで毎時間ラッパ音が響く。しかも途中で途切れるということだった。

首都や昔古城の姿涅槃西

 中央市場広場の土産物店は賑わっていた。琥珀、宝石、木工品、お皿、織物、小物、ぬいぐるみとどの店にも客がいる。ジジとババは小物入れの木工品を8個ほどみやげに買った。
 夕闇が迫る。広場の教会からラッパの時報が鳴りだした。ゆっくりしたもの哀しいメロディーが30秒ほど続いて途切れる。それが方向を変えて4回鳴って終わった。
 一度宿に帰ってイスラエル料理を食べに出かける。古びた狭っ苦しい店に、丸椅子に腰だけ掛けた姿勢で座る。
 ほどなく4人の演奏家が入ってきた。ユダヤ人のバンドだ。中年のバイオリン引きの男女、ベースの男、そしてフルートを持った長い金髪、妖精のような美しい娘。緩やかな物哀しいメロディーが流れる。部屋は暗くしていて、演奏家4人の後に置かれた5本のローソクの光の中での演奏だから雰囲気がある。突然転調して急テンポの激しい調べになる。主役は勿論フルートだ。それに旨くほかの音がマッチしている。高校生の知馨与さんなどは椅子を枕にして、目を閉じて聞き入っている。
 緩急織り成すメロディーが民族の歴史の重さを語るかの如く、10分程続いて突然終わる。2曲聞いて料理が来た。ガチョウ料理だった。ビールを飲みながらだが、余りうまいとは思えない。足元に来た子猫に肉を投げ与えたが、猫もあまり旨そうには食べなかった。その間もユダヤ音楽は続き、1時間たって終わった。後でテープも吹き込んでいる有名なバンドだと知った。テープを2本買ってきたが、テープ音楽もいいが、ジジにはあの生演奏が鮮明に残っているようだ。

掻き鳴らす異国の調べ春の宵

 3月24日、火曜日。6時起床、7時30分朝食。パメラさんとはここで別れた。8時30分、クラコウを後にしてスロバキアを突き抜けてブダペストに向かう。山間部に入る。道も家も雪化粧だ。小高い頂きに木造の教会がある。トイレ休憩とする。50センチくらいの氷柱が下がっていた。
 突然木造街が現れた。どの家もどの家も木造だ。ちょうど正倉院造りといった感じの、太い丸太や角材を使った白木造りが何十軒となく続く。どれも絵になる。馬車が通る。知馨与さんが「馬車と一緒に撮る。馬車止まって!」と叫ぶ。馭者が「ハイ!」といって馬に鞭を当てて行き過ぎる。余りにもタイミングの良い掛け合いに大笑い。
 家々の塀には自家製の玄関マット風の織物が干してある。「世界の洗濯物」を撮り続けて本にしたいというみやさんは、ここでも忙しそうだった。
 家々の軒先にはキリスト像とおぼしきものが飾られている。家々の安全を願う道祖神なのだろう。しばらく行くと石造りの家も混じる。「このあたりは雪が多いから折衷派が多いんです」と、みやさんの一発。

木造の教会も見ゆ春の雪

ザコパネにて

アウシュビッツ